第1話 

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誰にでも1年に1度、必ず訪れるその日

 

友だちには祝福をされ

 

ずっと想いを寄せていた人から告白を受ける

 

そんな素敵な日になればいいなと夢をみてしまう特別な一日

 

9月16日、私、五十嵐希の誕生日です。

 

「誕生日なんだって?」

 

クラスでそんな声を聞いて振り返ってみると、それは自分に向けられたものではなかった。

 

「えーっ、裕太9月生まれなんだ!」

 

同じクラスの一条裕太とそれを取り囲むメンバーたちが、裕太の誕生日の話で盛り上がっている最中だった。

 

(まあ、そうだよね・・)

 

クラス1の人気者の一条裕太とクラス1地味な自分とでは置かれている環境が全然違う。

 

おめでとうなんて言ってももらえないし、誕生日を覚えてくれる友達なんて、私にはいない・・・

 

(帰ろ)

 

現実を突きつけられているようでいたたまれなくなった希は騒ぎをよそにかばんを背負って帰路についた。

 

その姿を騒ぎの中からじっと見つめる裕太。

 

「はぁ・・また・今年も家族にだけ祝ってもらう1日か」

 

強がってみても年頃の女の子である。

 

同級生の誰にも知られないまま誕生日が過ぎていくのはハッキリ言って寂しい。

 

「小学生のときはみんなお祝いしてくれたんだけどな・・・」

 

その頃の希はどちらかと言えば活発な女の子で、学級委員もしたし弱い者いじめしてる子たちを懲らしめたりもした。

 

(なのに・・・どうしてこんな風になっちゃったのかなぁ)

 

出るのはため息ばかり。

 

目立たないように目立たないようにクラスでひたすら隅に隠れて過ごす日々。

 

「見るからに地味で根暗で・・・あっツライ、もうやめよう」

 

「折角の誕生日!、気持ちだけは明るく・・」

 

とぐっとこぶしを握ってポジティブな気持ちに切り替えた希の前にやたら吠える犬が一匹。

 

犬が苦手な希には先に進むのがとても難関な犬イベント発生だ。

 

でも犬の吠える先をよくよく見てみると・・・・茂みのなかに黒い毛の猫がとても震えて潜んでいた。

 

「助けられるものなら助けたいけど・・・」

 

吠える犬、力なく鳴く猫、昔のように勇気はない、足も震えて動かない。

 

・・・・

 

「人にはできることとできないことがあるのーーーーーーーっっ!!!」

 

思わず心のつぶやきをそのまま叫んだ希。

 

そこに現れたのはなぜか一条裕太。

 

「ははっ、すっげー大声。五十嵐、それ、動物虐待」

 

(一条裕太!!)

 

裕太は犬の頭を撫でてやる。

 

犬はうれしそうにしっぽをふっている。

 

焦って事情を説明するも猫はもうおらず、猫のいた茂みにはペンダントが落ちていた。

 

拾ってみるとそれはとてもきれいな青の懐中時計だった。

 

なおも犬を撫でながら希が犬をいじめたと繰り返す裕太にイラッとした希は

 

「もういい!」

 

その場を足早に立ち去ってしまった。

 

一条裕太は人を避けるように過ごしている希にも平気で話しかけてくる変わった人だ。

 

彼の事はとても苦手にしていた。

 

「おーい、五十嵐!」

 

そんな希になおも後ろから声をかけてくる裕太。

 

「もう私に話しかけないで!」

 

「ついてこないで!」

 

「ねーっ、ほんとにごめんって!!希ちゃーん!」

 

「ちょっと名前で・・・」

 

苗字ではなく急に名前で呼ばれたことに反応して希は思わず振り返った。

 

でもそこは道の真ん中。

 

後ろからは勢いよく車が走りこんできて・・・

 

危ないっ

 

と思った瞬間希は裕太の腕の中に引き込まれていた。

 

そしてそのまま二人は倒れこみ・・・・唇が・・・・

 

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